映画の街・蒲田の記憶を宿す通り
大田区蒲田駅から少し歩いた場所にある「キネマ通り商店街」。その名前は、かつてこの地に存在した「松竹蒲田撮影所」に由来しています。1920年代から1930年代にかけて、日本映画の黄金期を支えたスタジオであり、ここから多くの名作が誕生しました。撮影所が閉鎖されてからも、通りの名前に「キネマ」という言葉が残され、今も人々に当時の面影を伝えています。
蒲田撮影所では『東京行進曲』や『マダムと女房』といった作品が撮影され、日本映画の近代化を象徴する場でもありました。今はスタジオの建物は残っていませんが、街を歩くと歴史を感じさせる工夫が随所に見られます。
下町情緒あふれる商店街
現在のキネマ通りは、地元の人々の暮らしを支える商店街として賑わっています。八百屋や魚屋、精肉店や和菓子屋など、昭和の面影を残したお店が軒を連ね、夕方になると買い物客で活気づきます。大型ショッピングモールとは違い、人と人との距離が近いのが魅力。お店の人とのちょっとした会話に、下町ならではの温かさを感じられます。
また、通りの街灯や装飾には映画フィルムやカメラをモチーフにしたデザインが取り入れられており、「映画の街・蒲田」の歴史を意識できる仕掛けになっています。何気なく歩くだけで、小さな“映画館街”を散策しているような気分になるはずです。
地域イベントでつながる街
キネマ通りでは、季節ごとのイベントも盛んに行われています。夏祭りや縁日では、子どもたちがヨーヨー釣りやかき氷を楽しみ、大人は昔ながらの屋台や生ビール片手に盛り上がります。秋のハロウィンイベントでは仮装した子どもたちが商店街を練り歩き、冬はイルミネーションで彩られるなど、一年を通して地域を盛り上げる工夫が満載です。
こうした取り組みは、単に買い物の場にとどまらず、「人が集まり、交流する場」として商店街を発展させてきました。映画の街としての歴史と、今の暮らしを結びつけているのです。
映画の面影とコロッケの香り
私が訪れたとき、特に印象的だったのは総菜屋さんのコロッケ。揚げたてを頬張ると、サクサクの衣とほくほくのじゃがいもが絶妙で、思わず笑みがこぼれました。お店の方に話を伺うと「昔は俳優さんがよく商店街を歩いていたのよ」と懐かしそうに語ってくれました。こうした“生の記憶”が聞けるのも、この通りならではの魅力です。
映画の撮影が行われた場所を直接目にすることはできませんが、そこで暮らしてきた人々の声や、街並みに刻まれたデザインに触れることで、確かに「映画の街の空気」を感じられます。
ゆったり歩いて味わいたい場所
派手な観光スポットではありませんが、キネマ通りには他では味わえない独特の魅力があります。昭和レトロな雰囲気、映画の歴史、そして人々の暮らしが絶妙に混ざり合った空間は、歩くだけで心が温まるはずです。
大田区を訪れる際には、ぜひ蒲田駅から足を延ばして「キネマ通り」を散策してみてください。きっとあなたも、映画と下町が織りなす優しい時間に浸れることでしょう。